写真:Nik van der Giesen

声に出して読みたい『美以久佐(みいくさ)』
Let's read aloud 'Miikusa'

2024年
インタラクティブ・サウンド・インスタレーション
マイク, パラメトリック・スピーカー, モニター, ミキサー, コンピュータ, 他
サイズ可変

金沢三文豪の一人に数えられる室生犀星の詩集『美以久佐(みいくさ)』の朗読を、鑑賞者自身が行う参加型のサウンドインスタレーション。戦中の1943年に書かれたこの詩集は、戦時下の雰囲気を色濃く反映した詩を多く収めており、犀星の文業の中でも特異な位置付けにある。

本作は、マイクとパラメトリック・スピーカー、モニターにより構成される。モニターには『美以久佐』に収録された詩から抜粋されたフレーズが、テキストとして順次表示され、鑑賞者は、表示されたフレーズをマイクに向けて朗読することを求められる。一節読むごとに、発話者の声は録音され、超音波を利用した超単一指向性のスピーカーによって、発話者自身の耳元で「復唱」される。

本作において鑑賞者は、詩を「読む」際には、自身が普段認識している声を聞くことになるが、復唱を「聞く」際には、他者が認識している自分の声を認識することになり、自己と他者の間に生じる認識のズレを自分自身の身体を通して体験することになる。こうした再帰構造の中に取り込まれながら、鑑賞者は、時代錯誤的な戦争賛美の雰囲気のある詩、それも作者の望まぬ形で作られた詩を読まされるという奇妙な体験を強いられる。詩人の内なる心情と政治的社会的外圧との間で生まれた詩、戦争と鑑賞者の距離感、声というメディア、他者の言葉を読み解くということー。複層的なズレや不調和、またその間の距離感を、声に出して読み、出した声をまた自分自身に戻すという自己完結した循環の中で咀嚼し、思考し、探ることを試みる。

This work is a participatory sound installation in which visitors read aloud from Miikusa, a collection of poems by Saisei Murō, one of Kanazawa's three great writers. Published in 1943 during the war, this collection contains many poems that strongly reflect the wartime atmosphere and holds a unique place in Murō’s literary career.

This installation consists of microphones, parametric speakers, and monitors. Excerpts from the poems in Miikusa are displayed sequentially as text on the monitor, and the viewer is invited to recite the displayed phrases into the microphone. After each verse is read, the speaker’s voice is recorded and then “recited” back to them in their own ear through a super-directional speaker using ultrasonic waves.

Poems born between the poet's inner feelings and external political and social pressures / The distance between war and the viewer / The medium of the voice / Reading the words of others, etc. This work attempts to chew, think, and explore these multi-layered disparities and incongruities, as well as the distance between them, in a self-contained cycle of reading aloud and then returning to oneself again with the voices one has produced.

写真:Nik van der Giesen